「社会教育」の再発見に向けて 〜人を育て、つなぎ、地域をつくる原動力



 本日はこういう場を頂きましてありがとうございます。文部科学省教育課程課の塩見と申します。本年1月から初等中等教育局の教育課程課におりますが、その前に1年5カ月ほど生涯学習政策局の社会教育課で仕事をしておりました。
今日は1時間ほどお話しをさせて頂ければと思っております。よろしくお願いいたします。

1 「社会教育」の見えにくさ
 今日は、社会教育の再発見に向けてということでお話しをさせていただこうと思っております。
 私は2年ほど前に社会教育課長を拝命しまして、社会教育の仕事をすることになりましたが、その中で自分が社会教育の仕事をしているということを色々な人、特に民間の方とか、役所でも文部科学省以外の役所の人に話しをする際、社会教育とは何かということをなかなか分かってもらいにくかったという経験がありました。社会教育について、学校教育はこうで社会教育はこうだという話しをするのですけれど、皆さん何となく解ったような解らないような感じの受け止め方の方が多かったような気がします。これは一体どうしてなんだろうとずっと思っておりました。社会教育という言葉自体が解りにくいところがあるのか、「社会科の教育ですか」「社会を教育するというそんな凄いことをするんですか」という方もありましたし、社会教育という言葉がちょっと印象として固いとか古いとかいったイメージがあるのかなと思ったりしていました。
 社会教育というのは、人が人として幸せに生きていくために本当に欠かせない機能だと思いますが、なかなか通常の生活の中では目に見えにくい、これが社会教育だと意識されづらい部分があるのかなと思いながら、一体どうすればその大事さとか、社会教育に取組んでいくことの必要性を解ってもらえるのかなと思いながら1年5カ月という期間を過ごしてしまったような気がしています。今日はその反省も込めてお話しが出来ればと思っております。

2 社会教育行政の現状 〜データが示す難しい現状〜
 社会教育のお話しを進めて行くにあたって、用意しました幾つかのデータを見て頂きたいと思います。これは恐らく関係の皆様であれば何度もご覧頂いた数字ではないかと思います。地方教育費調査ですとか、社会教育調査ですとか、社会教育に関するいろんな調査ございます。1枚目の資料では社会教育費の地方の教育費に占める割合などについて示しています。(資料1頁へ)だいたい全体の地方教育費の中で社会教育費の占める割合というのは10%程度ということであり、総額としては緩やかな減少傾向にあります。それから社会教育施設、公民館、博物館、図書館が代表的な社会教育施設というところですが、(資料2頁へ)その現状としては、公民館については館数、学級講座数に減少がみられる状況です。博物館は数が増えていますが、入場者数は横ばいの傾向です。図書館だけが館数も増えて貸出し冊数も増えている状況にあります。もう一つは、(資料3頁へ)都道府県別の1人当たりの公民館の年間利用数の比較を出したものです。突出して多いのは長野県でして、長野県は公民館活動が盛んなところとして非常に有名なのですが、日本全体としては一人当たり1年間に2回くらい公民館に行くかどうかという数字です。ちなみに千葉県は、2.15回で平均よりちょっと上という位です。東京は0.32回でして、公民館自体が非常に少なくなっており、東京の人に公民館の話しをしても全然わかってもらえないことが多いのですが、地域差が出てきているということだと思います。それから、公民館の職員数の推移ですけれど、(資料4頁へ)職員数、専任職員の割合は年々減少して、非常勤職員の割合が高くなっているところが大きな特徴です。
 次に社会教育主事の人数と配置率ですが、(資料5頁へ)グラフでご覧頂いてもわかりとおり、右下がりで一方的に下がってきています。棒グラフで表しているのは社会教育主事の人数ですが、平成8年と一番新しい平成20年とを比べてみるとお分かりのとおり、平成8年の半数以下に人数は減ってきており、各委員会への配置率も年々減少してきている状況にあります。
 次に社会教育主事の自己認識ということで調査したデータについてです。(資料6頁へ)社会教育主事が自分の仕事についてどう思っているのかを調査をしたものですが、一番上が教育職としてやり甲斐があると答えた社会教育主事さんの割合ですが、「そう思う」というものと、「どちらかといえばそう思う」をあわせて9割近くということで非常に大きいです。やりがいがあるという仕事ということで認識頂いているのですが、一方で下の方の三つぐらいのグラフは、その仕事がどう評価されていると思うかどうかということですけれど、教育委員会内部で評価されている、都道府県から評価されている、学校から評価されている、或いは首長部局から評価されていると肯定的に答える人の割合がどちらかというと低い状況になっていまして、やりがいがある仕事だとは認識しながらも、自分の仕事がどう見られているのかということに関しては自信が持ち切れない状況がうかがえるのではないかと思います。
 こういう数字を見ますと、社会教育を巡る状況、社会教育行政を巡る状況と申し上げた方がいいかもしれませんが、予算が減らされたり、施設が減ってきたり、さらにはそこで働いている職員の皆さんの意識の面でもなかなか元気が出ない部分があったりして、社会教育は本当にこれからどうなるんだろうかと言われることも多いわけです。ただ、振り返って改めて考えてみると、社会教育の機能そのものが不要になったということは決してないわけでして、社会教育というのは、それぞれが一緒に勉強し、集い、繋がって世の中を良くしていこう、地域を良くしていこうという活動だと思います。その機能自体はますます必要になってきている中で、どうしてこうした状況になっていくのか、行政の部分で何をどう変えていったらいいのかということで、私も当時非常に悩みました。その解決策はすぐに見つかるというものでもありませんので、同じように今の文部科学省の担当者も悩んでいるところだと思いますが、こういう状況の中でこそ、「社会教育」にはどういう目的があり、何のためにやるのか、とりわけ行政がどうして社会教育を振興していかなくてはならないのかということを考える必要があると思います。

3 そもそも社会教育の目的って何だろう?
 そこで、そもそも法律にはどう書いてあるんだということで、ここには教育基本法と社会教育法の社会教育に関する条文を抜粋しました。(資料7頁へ)教育基本法では、「個人の要望や社会の要請にこたえ、社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によって奨励されなければならない。」という規定がございます。また、社会教育法では「「社会教育」とは、学校教育法に基づき、学校の教育課程として行われる教育活動を除き、主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動」だと書かれています。書いてある内容は非常に解り易いのですが、何というか淡々とした記述、規定でして、そもそも何のために社会教育をやらなければいけないのかというところは、ここからは伝わりにくいのかなと思います。
 そこで、社会教育にかかわるものであれば誰しもご存知だと思いますが、そもそも社会教育を戦後振興していこうとなった時に、思想的な中核になったのが寺中構想と言われるものでした。戦後間もなくの時期、当時の文部省の社会教育課長を務めて、公民館を社会教育の中核的な施設として是非全国に作っていこうと呼び掛けた寺中作雄さんの構想を思い出す必要があるのではないかと思います。その寺中構想がよく表れているものとしてしばしば引用されるのが、「公民館の設置について」という昭和21年の文部次官通牒です。(資料8頁へ)そこでは公民館について説明されているわけですが、今、改めて見ても感銘を受けるのは、ここに示した文章の中ほどあたりに書いてありますが、「郷土に於ける公民学校、図書館、博物館、公会堂、町村集会場、産業指導所などの機能を兼ねた文化教養の機関である」とあり、更に「各団体が相提携して町村振興の底力を出す場所でもある」と書かれている部分です。公民館が作られる当初どの様に考えられていたか、どんな期待が込められていたかということが解ります。あわせて、この当時の資料の中にあったイラストもちょっと非常に興味深いのでお示ししていますが、(資料9頁へ)色んな人が集って学んだり、民主主義の訓練場という表現もあったり、郷土振興の機関という記載があったり、産業振興の原動力という記述があったりしていますが、公民館が非常に幅広い地域の振興全体にかかわる仕事が期待されるようなものとして構想されていたということだと思います。そもそも社会教育が、そのようなことを生み出すための原動力にならなくてはいけない、という考え方で構想がまとめられ、文部次官通牒という形で全国に示されたのだと思います。こうしたことを考えると、社会教育、地域の原動力、底力になって地域全体を振興していくような意味での社会教育が、今、イメージとして弱くなっているのではないかと思います。戦後間もなくの頃と全く社会の状況も変わっていますし、本当にその頃は何もなくて行政の組織の機能も整ってなく、社会教育が色々な事を背負わなきゃいけなかった、そんな時代とは非常に状況が変わっているのは確かですが、出発点として社会教育とはこのようなことが期待されたものだったということは今改めて思い出す必要があると思っております。

4 現実が浮き彫りにする「社会教育」の重要性
 今の社会教育は、一般に、勉強をするところ、教育の場と受け止められることが多いと思います。どこかに集まり講座を開き勉強すると言うのが社会教育、と言われがですが、それは少し狭い捉え方にすぎているのではないかと思います。
 それは、現実の社会を見たときに、今ほど人と人との繋がりについて考えなければいけないと多くの人が思っているというときは無いのではないか、と思うからです。
 特に数年前に、話題になった「反貧困」という本がありました。湯浅誠さんというかたが書かれた本でありまして、その本には、今の非常に厳しい状況に置かれている人々のことについて1回でも足を滑らせたらすぐさまどん底の生活にまで転げ落ちてしまう滑り台社会になっているのではないか、人と人との繋がりが失われていったんセーフティネットから落ちてしまったときにだれも助けてくれない、本当に行きつくところまで落ちて行くしかない、そんな社会になっているんじゃないかという問題提起がありました。
 また、数年前にNHKスペシャルで非常に話題になりました「無縁社会」という番組があります。無縁社会という言葉自体が非常にショッキングな言葉ですし、そこで映し出された映像も本当に胸に刺さるものがありました。都市化が進み、非常に近代化された生活の中に多くの人々が暮らしていますが、その中で例えば普通に生活していた人が仕事を辞めたり、辞めさせられたりして職場との繋がりを失った後にどんな「縁」が残されているのだろうか。特に都会で生活している人たちについて見ますと、そうした一つだけの縁が切れてしまったとき、本当にほかに繋がりようのない非常に孤独な生活に陥ってしまう、孤独死ということが都会の生活の中では本当に問題になっていますが、そういう状況に陥らざるを得ないような社会構造になっているのではないかということが大きな衝撃を持って迎えられました。それは特別な人だけの問題ではなく、普通に生きている誰もがそのようになってしまう可能性があると思わせられたところが非常に恐ろしいものだと私も思いました。自分自身のことを振り返って考えたときに本当にそうならないと自信を持って言い切れるか、そんな繋がりがきちんと自分として作れているか、そういうことを多くの人が同じように思われたのではないでしょうか。
 こうした社会の状況を考えたときに、本当は社会教育というのは人々が孤独な繋がりのない生活に陥るということを防止していく機能があるのではないか、人と人とが学びを媒介にして繋がって、地域と人とが繋がってそれぞれがその中に組み込まれて、その中に居場所を持って生きて行くというために、社会教育は大きな機能をはたしていたのではないか、今こそ本当に社会教育が求められている、そういう状況なんじゃないかと思います。
 そのことをさらに決定的に感じさせられたのは、昨年3月の東日本大震災です。震災は本当に大きな爪痕を残しており、今もまだ復興の努力が各地で続けられていますが、震災の直後、被災地では多くの方たちが学校や公民館などを使った避難所に入りました。そこでどの様なことが起こったかということを、当時社会教育課でいろんな方にお聞きしたり情報を頂いたりしました。その中で非常に印象的だったのは、ここの事例にも紹介しましたが、公民館が大変大きな役割を果たしたということ、特に日頃から地域に根差した、地域の人々が支える公民館として機能されていた公民館は、避難所となった時に運営の面で地域の方々に支えられて円滑な運営ができたということです。
 宮城県の気仙沼市松岩公民館の例ですが、(資料10頁へ)この松岩公民館は私も直接視察に行かせていただきましたが、本当に大変な状況の中で地域の方たちが自主的に動いてみんなで何とかしようという気運が非常に強く感じられたところでありました。その他にも幾つか事例を紹介してございます。(資料11頁へ)ここには公民館が避難所になっただけではなくて、震災をきっかけに、防災の機能を公民館で担っていこうということで取組まれた事例についても紹介させて頂きました。
 それから、もう一点お示ししたいのが、学校支援地域本部と震災の様子ということです。学校支援地域本部は、学校を地域の方たち、保護者の方たちにもっと応援してもらい学校の教育活動に参加していただこうと文部科学省でも一生懸命応援して進めている取組みです。これは宮城県の小中学校の校長先生の聞き取り調査ということで得られたデータです。(資料12頁へ)社会教育課には仙台市教委から割愛で係長さんが来られており、係長さん自身も学校が避難所になった時にそこで運営に携わられたのですが、その時の経験も踏まえて、小中学校の校長先生方に聞き取り調査をしてくれました。その中で、学校支援地域本部として地域の方が日頃から学校に関わる仕組みのあったところは、避難所となった時の運営が順調だったと答えられた校長先生が95%でした。一方、学校支援地域本部が未設置の学校20校に聞いたところ、順調というお答は35%で、混乱が見られた40%、どちらとも言えない25%といった状況でした。具体的なコメントの内容としては、日頃から学校と地域が繋がって顔が見える関係や、お互いの信頼関係が築かれていたところでは、避難所となるという非常に危機的な状況の中でもそれぞれ助け合い、支え合って行こうということができた、本当に大きな力になったということを言っていただいております。避難所運営に当たって、人と人との繋がりや支え合いが本当に大きな機能を果たしたという例は数多くあると思いますが、本日はその一例としてこの資料をお示ししました。
 こうしたことが、まさに社会教育本来の力ではないかと思います。普通の状況ですとか、物事がうまくいっている時は、なかなか社会教育の機能や、人と人との繋がりが見えにくいわけでして、むしろどちらかというと面倒臭いとか鬱陶しいと思われたりすることすらあるかもしれません。ただこうした非常時といいますか、大きな危機に遭遇するような状況になった時に矢張りこうしたものがないと人は生きていけないということを改めて感じます。
 こうした繋がり、人と人とが絆を持つことの大事さというものが、今、実感として多くの方に感じられるようになっていると思いますが、この繋がりを作りだすのに大きな役割を果たすのが社会教育だと思います。それが社会教育という名前、形で意識されているかどうかはともかく、学びを通じて人と人とが繋がるという社会教育の機能が本当に求められている状況だと思います。そういう意味で社会教育を今こそ再発見して、繋がりづくり、地域づくりというものにも力を発揮してもらいたいと思います。
 あわせて、新しい公共について少し申し上げます。近年、新しい公共ということがよく言われるようになりました。(資料13頁へ)これについて「新しい公共円卓会議」が平成22年6月に決定した新しい公共宣言では「人々の支え合いと活気のある社会。それをつくることに向けた様々な当事者の自発的な協働の場が「新しい公共」」と書いてありますが、まさに先ほどからご紹介しておりますような震災時の人と人との助け合いといった活動とか、人と人とがお互いに苦労しながら自分たちの身の回りとか生活の状況をより良いものにしていこうという考え方こそが新しい公共が本来目指しているものではないかと思います。「公共」のことは行政が全てやればいいということで物事が足りる世の中でありませんし、状況でもないわけです。一人ひとりが地域とか社会をより良いものにしていくという責任の担い手という自覚をもち、繋がり汗をかき努力をしていくことが必要であり、これはまさに先ほどご紹介しました寺中構想が本来目指していた社会教育のあり方ではないかと思います。

5 社会教育の再発見〜「教育の殻を破る」「自律性・持続可能性」をキーワードに
 そこで社会教育を改めて考えてみますと、社会教育は教育の世界だけ、学びの世界だけではなくて、世の中のあちこちに存在するものではないかなと思います。社会教育というと図書館、博物館、公民館あたりが典型的な社会教育を行う施設と捉えられるわけであり、それ自体は正しいことです。しかしそれだけではなく、社会教育というのは社会全体に存在するもの、社会をより良いものにして人と人とが幸せに生きていくために絶対に必要な機能だということをもう一回捉えなおしてはどうでしょうか。例えば街づくりとか、福祉、医療、或いは農業の振興ですとか、更には多くの外国人の方たちが日本で暮らしていますが、そうした異文化を持っている方達との共生など、地域には本当に様々な課題があり、こうした課題を解決する、それを一人一人の力で解決しようとする時に社会教育は欠かせない役割を果たすものだと思っています。今申し上げたような街づくり、福祉、医療などの様々な分野、フィールドも社会教育の潜在的なフィールドと捉えて、社会のあちこちで社会教育の機能を発揮させていくという形で是非連携して進めていく必要があると思っています。
 こうした意味で考えていきたいということで、「社会教育の再発見」ということで、「教育の殻を破る」「自律性・持続可能性」をキーワードにといたしました。社会教育を考えるとき、こうした視点を今後持っていったらどうだろうかというのが、本日私から申し上げたいことであります。
 社会教育は、震災時の避難所の生活をはじめ、人の営みのあるところ、あるゆる場に成り立ちうるものだと思うわけです。例えば、福祉や医療と社会教育の連携を考えたときにどういうことができるのか、どういう可能性があるのか。今多くの自治体で健康とか福祉の分野で色々な取組みが行われています。そこでやっていることを見た時に、実は社会教育と同じような内容の講座、教室というものも結構あるように思います。これを例えば社会教育と福祉部局、健康部局がもっと連携して一緒にやれないかと思ったりします。自治体の色々な行政の中で、福祉や健康は本当に大きな比重を占めている仕事だと思います。予算も教育とは比べ物にならないくらい沢山注ぎ込まれています。こうした中で社会教育とうまく連携して、社会教育の機能を発揮させ相乗効果というものを上げていけないかと思うわけです。例えば、福祉の分野で介護予防とか高齢者のための健康教室などを沢山やっていると思いますが、福祉の世界でやる限りにおいては、例えば行政がそうした教室を開催して、やったらそれで終わりということになりがちです。ただそこで、社会教育の本来の機能を活かしていければと思います。社会教育のよさは、学んでそれで終わりではなく、学んだことを活かし、学んだ人が次に繋がっていくところに強みがあると思います。例えば介護予防などの教室が終わった後でも、社会教育のこうした機能を持ちこむことで、学んだ人同士がネットワークを作ってその次に繋がるような活動をしていくとか、もっと仲間を増やしていくなどの活動ができるようなる、ということを期待するわけです。一例で介護予防のような高齢者の健康のお話しをしましたが、こういうことを色々な分野でやっていけばもっと自分たちで参画して自分たちで良くしようということに活かしていけるのではないかと思います。こうした取組は、実はすでに色々な自治体で実施されています。例えば長野県の松本市では公民館と福祉ひろばという福祉の施設が併設して位置付けられており、社会教育と福祉の連携が進められているというお話しをお聞きしています。ただ、問題は中々それが全国で当り前の様な形では広がっていないということです。担当者同士は内々にそうしたいと思っている方が多いと思います。もっと他の分野と連携し、社会教育を取り入れられたらよくなるのにと思っているところがあると思います。それぞれ縦割りになりがちな分野の枠を超えて、殻を破って連携をしていくことができないだろうかと思うのです。
 こうした社会教育の機能の強みを発現し、発揮していくためには、社会教育が人を育てるというところがポイントなわけです。学んでそこで色々な個性を持った、色々な意志のある人が育っていくことで次の活動に踏み出したり、その活動を別の方向に発展させたりすることができるところが強みだと思います。こうした人を育てるためには、学びの拠点になる場と、そうした人が育っていく活動をそばで見守ったり、色々な活動をコーディネートしたりそのきっかけを作ったり、更にいろんな助言を行ったりする人が必要だと思います。それが公民館であり社会教育主事さんや公民館主事さんであり、社会教育を支える人の仕事だと思います。この様な観点で、学びの持つ強みを捉えなおし、それぞれの仕事を横に繋げていくという方面でさらに強化していただけないだろうかと思います。
 この社会教育の強みについて、実は市町村の首長さん達で理解されている方はかなり多いと思います。それが社会教育とか生涯学習と具体的に認識されているかどうかはともかく、人を育てて社会の中で色々な活動を行うことの大事さは多くの首長さん達こそが強く認識されていると思います。社会教育、生涯学習の関係でも全国生涯学習市町村協議会という協議会がありまして、100位の自治体の首長さんが加盟されています。私が社会教育課におりましたときにそうした首長さん達とお話しをする機会がありましたが、皆さん街づくりをしていくということと社会教育、生涯学習は切り離せないということを異口同音におっしゃっていました。街づくりは人と人とを繋げて地域を振興していくということだと思いますが、この街づくりを進めて行く上で社会教育、生涯学習が果たす機能は本当に不可欠だ、人を繋げていく、人づくりを進めるというのは街づくりにとって一番大事なものだということを強くおっしゃっていたのが非常に印象的でした。
 社会教育とか生涯学習というと教育の世界のお話しだとなりがちですし、教育は教育委員会の所管だからという話しになりがちです。特に社会教育については、教育委員会でやるということが地方教育行政の組織及び運営に関する法律にも明確に書かれています。しかし、その視点を少し広げて首長部局がやっている仕事とも連携していくという可能性も追求していく必要があるのではないでしょうか。特に、今、少子高齢化ということがあちこちで言われており、これから日本の活力を維持していくときにどう取り組んでいくのかということは色々な分野で共通の課題になっていますが、少子化と高齢化、実は別の話しであり、高齢化が進むということは長寿化が進んでいるわけです。これまでより長くなっている高齢期の生活をどう充実したものにしていくかということはこれからの非常に大きなテーマになっていくと思うのです。そうした高齢期を別の観点から捉えますと、社会保障費の負担が非常に大きくなり、国の財政も地方の財政も厳しい中でどうやって行くのかという話しになります。消費税を上げることもそこに繋がっていくのですが、消費税を上げて行くことだけで真に高齢化に対応できるのかという問題になってくるのだと思います。長寿化で高齢期が長くなったということは、それだけ元気で活躍できるシニアの方たちが増えているということですから、そうした方たちの活力を、社会を支える、支えられる方ではなくて支える方向で是非発揮してもらえないだろうかということを考えなければいけないと思います。
 私が社会教育課におりました去年の秋、先ほどご紹介した全国生涯学習市町村協議会のメンバーでもある鹿児島県の志布志市というところがありますが、そこの市長さんから自分たちの町で非常に面白いことをやっているというお話しを聞き視察に行ってきました。志布志市では、市民大学をやっていまして、社会教育として色々な講座を実施して、市民の皆さん、特にシニアの皆さんが多いとのことですが、が学んでいらっしゃいます。そこでは市民大学で学ぶだけではなく、市民大学を修了された方達が、その後自主研究グループを作っていました。この自主研究グループで街づくり観光ガイド、志布志の語り部、子育て支援、地元学とか焼酎文化研究、鹿児島ですので芋焼酎ですけれども、といった色々なタイプのグループを作って、市民大学を出た後も自分たちで色々勉強したり地域に自分たちの活動の成果を還元できないかと取り組んでいるということでした。実際の活動の様子を見せていただいたり、街づくり観光ガイドとして活躍されている方に観光名所についてお話しを聞いたりしましたが、その多くの方たちが、自分達も志布志という街を良くするために力を貸したいということを言っており、勉強したことを地域を良くするために活かすという気概、やりがいを持って楽しく取り組んでいる姿がとても印象的でした。こうしたことで、街がすごく元気になって、活性化しているということを市長さんは自慢していらっしゃいました。こうした活動、学びの場があり、それを地域に還元していこうという具体的な動きがあることで、よその地域から移ってこられた人たちも非常に地域になじみやすくなって、地域を好きになる気持ちが強くなっているというお話しも聞きました。学びを通じて人と人とを繋げて垣根を低くして、仲良くさせるという社会教育の機能の強みがすごく良く発揮されていると感じました。
 それからもう一つ、鹿児島県の鹿屋市の「やねだん」の活動も見せて頂きました。ここの活動は、テレビなどでも取り上げられたりして有名なものですが、「やねだん」は鹿屋市の蜥J地区という小さな集落、地域です。高齢化率が高く、過疎も進んでいる地域ですが、そこの自治公民館の館長さんが中心になって地域づくりを進めていらっしゃいます。ここのモットーは補助金には一切頼らずに自分たちが実際に動いて活動して、地域を良くするということで、例えばちょっとした公園なんかは地域の人が自分たちで作ってしまいますし、道も直してしまうそうです。それから、ここでは焼酎、芋焼酎を作ってそれを製品として販売をしています。インターネットで販売しているそうですが、非常によく売れているそうですし、韓国でも是非これを販売したいということで引き合いがあったという話も聞きました。びっくりしたのは、都会から若い芸術家を呼んで、そこに住んでもらい、地域で色々な創作活動をしてもらっていることです。お店を改造したギャラリーもあり、前衛的な芸術創造の成果が展示されていますし、その方々に時々学校に行って子どもたちにも芸術活動を指導してもらって、教育にもプラスになるようにやっていることでした。都会から若い芸術家が来ることで地域も若返り、人口も増えるというメリットもあります。更にびっくりしたのは、地域で焼酎を作ったり色々な活動をして収益が上がると、それを地域の人たちにボーナスとして還元しているそうです。自分たちのことは自分たちで何とかするという精神で活動をされている中で、やっぱり自分が頑張ってやらなくては、ということは健康にもいいそうでして、こうした活動をしている方の多いこの地区は、医療費が他の地域と比べて明らかに低く抑えられているそうです。今、多くの自治体で大きな課題となっている社会保障費をどうするかという面でも、社会教育や生涯学習が大きな役割を果たす、社会保障費の削減にも効果があるとおっしゃっていました。
 こうした、シニアの皆さんをはじめその地域のもっと横の繋がりを強化していこうという取り組みは日本だけの課題ではありません。都市化が進み、同時に高齢化が進んでいく中で地域同士、地域の人間同士を結び付けて関係を再構築したいというニーズは諸外国でも同様にあります。ヨーロッパやアメリカでも同じ様に色々な取組みが注目されているといますが、その中でフランスの「隣人まつり」というものがあります。これは三菱総研の「プラチナ社会研究センター」の資料で見たのですが、フランスでこの「隣人まつり」が最近すごく流行っているそうです。また、フランスだけではなくて世界各地にこの隣人まつりが広がっているということです。どういうものかというと、毎年五月の最終金曜日に簡単なお料理、お菓子、お茶、ワインとかを持ち寄って近隣同士で交流しようというイベントだそうです。それを「隣人まつり」と呼んでいるそうですが、そういうものを積極的に仕掛けてやっているという点に新しさがあります。隣りに住んでいてもなかなか顔を合わせる機会がない人たちが、隣人まつりということをきっかけに横の繋がりが出来てお互いに親しい関係をつくることができるということで非常に評判がよくて、フランスだけでなく世界各地に広がっているようです。
 また、スウェーデンでは高齢者の皆さんにぜひ社会参画してほしいということで、団地の中にシニア劇場を作り、色々な活動ができるような取組みをしている例が注目をされているそうです。
 日本だけでなく、世界各地で人が幸せに生きていくためには人との繋がりが不可欠ということが改めて注目されており、特に、繋がるだけではなくて繋がってまたその成果をより還元するとか、そこをきっかけにもっと勉強していきたいということがまさに社会教育だと思いますが、こういうものが非常に求められている状況じゃないかと思っています。
 あわせて、文部科学省に設けられた研究会が出した報告書「長寿社会における生涯学習の在り方について〜人生100年いくつになっても学ぶ幸せ「幸齢社会」」という報告書について申し上げます。ここではまさに今申し上げたような問題意識に基づいて、これからの時代、生涯学習に期待されている役割というものが述べられています。また、色んな事例も出ていますので、機会があれば是非ご覧頂けたらと思います。

6 文部科学省としての取組
 ここまで色々申し上げましたが、最終的に申し上げたいのは社会教育が今ほど本来の機能を発揮することが期待されている時代はないのではないかということです。
 それでは文部科学省は一体どんなことに取り組んでいるのかということについて最後に少しだけ触れさせて頂きます。
 まず、「学校・家庭・地域の連携による教育支援活動促進事業」についてです。(資料14頁へ)先ほど少し申し上げた学校支援地域本部という取組みを文科省で推進しておりますが、こうした学校支援地域本部とか、放課後子ども教室、これは放課後の子ども達に安全で色々なことが学び体験できるような場所を作ろうと地域や保護者の方たちのボランティアベースの協力を頂いているものですが、こうした活動や家庭教育支援を進めるということで「学校・家庭・地域の連携による教育支援活動促進事業」に取り組んでいます。(資料15頁へ)現状ですが、これは20年度からの推移が出ていますが、学校支援地域本部は24年度現在3千本部を超えており、今数字を持ち合わせていませんが、学校数にすると1万に近い数になるのではないかと思います。基本的な母体は小学校や中学校です。放課後子ども教室は、全国で1万教室以上が設けられております。このような形で徐々にではありますが、学校と地域が連携して人と人とを繋いで学びながら学校も地域も良くしていこうという活動が推進されており、各地域で多くの方に参加頂いています。
 今申し上げました事業自体は生涯学習サイド、社会教育課で主に担当している事業ですが、現在私がおります初等中等教育局でも学校と地域の連携をもっと強化しようということに取り組んでいるところでありまして、(資料1617頁へ)「地域と共にある学校づくりの推進」ということで、地域と学校がもっと連携を強めて子どもたちのために教育活動をやっていこうという取組を進めております。特にコミュニティスクールという形で地域の皆さん、保護者の皆さんに学校の運営にも参画してもらおうという取組については、コミュニティスクールをこれから5年間で全公立小中学校の1割、3千校にまで拡大したいということで支援をさせて頂いています。現状は、まだまだ3千校には達しておりませんが、地域と学校の連携をもっともっと進めようということで、強いメッセージとして発しています。
 それから「社会教育による地域の教育力強化プロジェクト」というのがあります。(資料18頁へ)これも社会教育の力で地域の色々な課題を解決したり地域を振興したりということを応援するためのモデル事業です。
 さらに、「学びを通じた被災地の地域コミュニティ再生支援事業」。(資料19頁へ)これは被災地を対象にした事業ですが、被災地で地域自体が大きなダメージを受け、人々の繋がりという面でも、避難される方や転居される方がある中で、地域をこれからどう立て直すのかということが大きな課題となっていますが、その時に、学びを通じて人と人とが集い繋がっていくことで地域の再生にも繋がっていくような、いわば社会教育黎明期の戦後間もなくの時代の理念に立ち返るような気持ちで作ったのがこの事業でして、被災地で必要とされる色々な学びを実施頂くときに、コーディネーター配置などの必要な経費を国で支援して、学びを通じて人が集うことで地域づくりの基盤になっていくようなことができないかということで進めているものです。
 学びを通じた被災地の地域コミュニティ再生支援事業の事例については別途資料をご覧いただきたいと思います。(資料20頁へ
 また、中央教育審議会生涯学習分科会でも、今後の社会教育行政の在り方について検討が行われています。(資料21頁へ)現状と課題として示された中教審資料では、これまで社会教育は「講座の開設などの「自前主義」的取組みが中心」、「しかし複雑化、多様化する社会の要請だとか住民のニーズに社会教育行政だけでは十分に対応できなくなっている」と述べています。多様な分野との連携が必要だということと思いますが、その上で「国民一人一人が持つ資質や能力を伸長するのみならず、様々な学習活動を通じて、地域社会において住民の間の絆を築くとともに、地域のコミュニティづくりを住民が自ら能動的に行っていくという気運と市民意識を醸成し、具体的な実践に繋げていくことのできる社会教育の重要性は、むしろますます高まっている」という認識が述べられています。こうした社会教育の課題に関する認識のもとに、具体的な社会教育行政の在り方についてこれから中教審生涯学習分科会で更に議論が進められると思います。
 その方向性を概念図としてお示ししているのがこの資料です。(資料22頁へ)図の真ん中あたりに書いてある「これまでの社会教育行政の括り」というところでは、社会教育があり、学校教育と家庭教育支援のところに連携という矢印がありますが、こうした社会教育を中心にした点線で囲ってある部分が従来の社会教育行政の括りだったのではないか、これをさらに広げて、街づくり、高齢者、福祉とか女性・青少年支援、或いは企業、民間教育事業との連携いったところまで含んだ形で社会教育行政の機能をひろげて考える必要があるということだと思います。図の上には、大学とかNPOの記述があり、こうしたところとの連携も必要になります。大学についてはCOC、センター・オブ・コミュニティということで大学自体も地域の中心としてコミュニティづくりに貢献していくという取組をもっと強化していこうという流れになっていますけが、こうした大学やNPOとも連携をしながら新しい社会教育行政の姿を作っていく必要があると思います。
 最後に、公民館をどのくらいの人が知っているかとか、使っているかとかというデータと、公民館利用者の特徴ということでデータをお示ししました。(資料2324頁へ)申し上げたいのは、公民館を利用している人たちの特徴として、公民館を使わない非利用者と比較した時に、学習の理由として「周りの人や地域、社会に役立てたい」ということをあげる人が多いということです。つまり公民館に行くなど社会教育に関わりを持つ人は、周りの人や地域、社会に役立てたいという思いを持って学んでいる方が多いということが表れているわけで、こうしたところにこれからの社会教育の希望、期待できるところが見出せるのかなと思います。
 文部科学省では、今、第二期の教育振興基本計画の策定に向けて取組んでいます。そのための検討が中央教育審議会で行われていますが、その中でキーワードとして「自立、協働、創造」が打ち出されています。「自立・協働・創造」を実現するためにも一人ひとりの力を育てて、それが人と繋がり地域と繋がって、地域全体の振興にも繋がるような社会教育の力、役割、意義というものをもう一回しっかりと受け止める必要があると思いますし、首長部局も含めた行政も関係団体も学校も地域も全員がそれぞれの立場から今できること、社会教育の中で今できることをしっかりと考えて取り組んでいく必要があると思います。
 ということで私から、社会教育、これからもっともっと頑張っていかねばという意味でのお話しとさせていただきました。最後までご清聴頂きましてありがとうございました。